大学費用のために1000万円の奨学金を借り、現在返済中のむーさんです。
奨学金返済に悩む方々に向けたブログを運営し、情報発信を行っています。今日は、奨学金返済中の30代の方からこんな質問をいただきました。
質問|大学時代に学費は300万円だったにもかかわらず、500万円の奨学金を借りました。現在、有利子の奨学金を返済していますが、私は繰り上げ返済をせず、借りた奨学金を金融投資や自己投資に回したほうが合理的だと思っています。むーさんはどうお考えですか?
これに対する私の結論は明確です。
奨学金はれっきとした「借金」です。たとえ金利が低くても、借金を抱えたまま投資に手を出すのはリスクが大きすぎます。しかし、低金利であれば返済を進めながら、少額の投資を並行して行う戦略も考えられます。この記事では、奨学金返済を優先すべき理由や、投資を始める考え方について、関連する学術研究を基に詳しく解説します。
この記事は以下の方におすすめです:
1. 借金と奨学金の本質:金利が低くても返済は必要
まず、奨学金を借りること自体は、多くの学生にとって大学進学のために必要な手段ですが、その本質は「借金」であることを忘れてはなりません。いくら金利が低いとはいえ、給付型奨学金を除いて奨学金は返済しなければならず、その負担は卒業後長期間にわたって続きます。特に有利子の奨学金は、元本に加えて利息も返済しなければならないため、将来の経済的自由を制限する要因となります。
奨学金の返済を遅らせることで、将来的に家計に余計な負担が生じる可能性があります。
また、JASSOの第一種奨学金のように、無利子の奨学金であっても、奨学金を使って金融投資をするべきではないと考えています。
その理由は、借金が残っていること自体が、精神的なストレスとなり、日々の生活に影響を与えることも少なくないためです。
金融投資を始める前に、まずは借金の整理を優先することが重要です。精神的にも経済的にも健全な状態を作り出すことで、その後の投資や資産形成もうまくいきやすいですよ!
経済的に安定していない状態で金融投資に手を出すと暴落からの狼狽売りで大損失なんてことも・・・。安定した土台作りが重要です。
2. 学術研究が示す「貧困と認知機能」への影響
奨学金や借金がもたらす精神的・認知的な負担は、学術研究によっても裏付けられています。プリンストン大学、ハーバード大学、ウォーリック大学の研究者たちが行った研究「Poverty Impedes Cognitive Function(貧困が認知機能を妨げる)」は、2013年にScience誌に掲載されました。この研究は、貧困や財政的な不安が人間の認知能力に悪影響を与えることを示しています。
具体的には、財政的なプレッシャーがあると、脳がその問題にリソースを割くため、他の重要なタスクに集中できなくなることが分かっています。
この研究では、財政的なプレッシャーを与えた際に貧困層の人々は裕福層と比較して認知タスクの成績が著しく低下することが確認されました。つまり、借金や経済的なプレッシャーを抱えること自体が、思考力や意思決定力を奪う要因となり、結果的に悪循環を生む可能性があります。
どういうことか、次の項で詳細に説明していきます。
3. 実験からわかる借金と認知機能の関係
「Poverty Impedes Cognitive Function(貧困が認知機能を妨げる)」の実験内容を引用しながら、財政的負担が認知機能に与える影響について解説します。
実験1: 財政的負担をシミュレーションしたラボ実験
Anandiらが行った最初の実験では、ニュージャージー州のショッピングモールにて101人の参加者を対象に、財政的な問題に直面した際の認知機能を測定しました。
参加者には、以下のような財政的な問題に関するシナリオが与えられました。例えば、「あなたの車に問題が発生し、修理に◯ドルが必要です。修理代を全額支払うか、ローンを組むか、それとも修理を見送るか、どのように決断しますか?」といったシナリオです。これにより、参加者に強い財政的な心配を引き起こすことを意図しています。
シナリオごとに、参加者は以下の2つのテストを受けました。
- レイヴン進行マトリックステスト:知能を測定するIQテスト
- 空間適応性タスク:認知制御能力を測定するテスト
参加者は、以下の2つの条件にランダムに割り当てられました。
その結果、簡単な条件では、裕福層と貧困層の間に認知パフォーマンスの差はほとんど見られませんでした。しかし、難しい条件では、貧困層の参加者が裕福層に比べ、知能テストや認知パフォーマンスの成績が著しく低下しました。
この結果から、お金に余裕がない貧困層の参加者は、財政的な心配があるとき、問題解決能力や集中力が大幅に低下することが示されました。
実験2: インドの農家を対象としたフィールド研究
次に、インドのタミル・ナードゥ州に住むサトウキビ農家464人を対象にしたフィールド調査が行われました。これらの農家は、収穫前には貧困状態にあり、収穫後には比較的裕福になるため、同じ農家の認知機能を収穫前後で比較することができます。収穫期前の農家は、より高い経済的プレッシャーにさらされており、農作物の収穫後にはその負担が軽減されるという状況です。
農家の認知機能を評価するために、以下のテストを行いました。
- レイヴン進行マトリックステスト:知能を測定するテスト
- ストループタスク:認知制御を測定するテスト
実験結果では、収穫前の農家の認知パフォーマンスが著しく低下し、収穫後には向上することが確認されました。具体的には、レイヴンテストでは収穫前に農家が平均4.35問正解していたのに対し、収穫後には5.45問に増加しました。また、ストループテストでは収穫前に平均146秒かかっていた反応時間が、収穫後には131秒に短縮されました。さらに、収穫前には平均5.93件の誤答が見られましたが、収穫後には5.16件に減少しました。
これは、農家が収穫前に経済的なプレッシャーを強く感じ、それが認知リソースを消耗させていたためと考えられます。このように、財政的な負担が認知機能に直接的な悪影響を与えることが、複数の実験を通して明らかになっています。
実験から学ぶ|奨学金返済を優先する理由
これらの実験結果を奨学金返済の状況に当てはめることができます。実験1における「財政的問題」は、「奨学金の返済」に置き換えられます。
お金に余裕がない状態で「奨学金の返済」という財政的問題を抱え続けると、短期的な問題ばかりに気を取られ、長期的に正しい選択ができなくなる可能性があります。さらに、奨学金の返済が続くと毎月のキャッシュフローが悪化し、貧困の感覚が強まります。
実験2のように、貧困層のマインドにいることで、潜在的に判断力が低下し、正しい選択ができなくなる可能性も考えられます。したがって、奨学金の返済を早期に解決し、財政的負担を軽減することが、認知機能や意思決定において重要な要素であることが示唆されています。
4. 借金返済を優先することが精神的負担を軽減する理由
借金が残っている状態では、常に経済的な不安がつきまとい、その結果として精神的な負担が増大します。このような不安は、仕事や生活全般に悪影響を及ぼし、最終的には判断力の低下や生活の質の低下につながる可能性があります。奨学金を繰り上げ返済することで、この精神的負担を早期に取り除き、余裕を持って将来のプランニングを進めることができるようになります。
さらに、借金を完済することで得られる自由は、将来的な資産形成や自己投資を進める上での大きな基盤となります。金融投資を行う際には、健全な財政状態が必要不可欠です。返済を優先し、精神的な余裕を持つことで、冷静かつ論理的な投資判断ができるようになるでしょう。
5. 低金利の奨学金なら、少額投資を始めるのも一つの戦略
あれ、むーさん。さっきと言っていることが違うじゃない。奨学金を返済しながら金融投資はありなの?
奨学金の返済を優先することは重要ですが、特に奨学金のような低金利の借金であれば、少額から投資を始めることも賢明な選択肢です。低金利の借金は、通常の高利率の借金と比べて経済的な負担が軽いため、その一部を投資に回すことで資産形成を早期に始めることができる利点があります。
ただし、大前提として、低金利の借金である場合かつ、少額から始める場合に限りますので、くれぐれもリスクを取りすぎないよう注意しましょう。
1. リスクや値動きに慣れる
金融投資は、最初は不慣れであることが多いため、最初のうちは少額から始めて、リスクの取り方や市場の値動きに慣れることが大切です。投資に慣れないまま大きな資金を投入するのは非常にリスクが高い行為ですが、少額投資であれば、失敗しても損失は限定的です。そのため、初心者は奨学金返済を続けつつ、少額の投資を行い、リスクに対する理解を深めていくことができます。
2. 早期に投資を始めることのアドバンテージ
投資を早いうちから始めることで、複利効果を最大限に活用できるという強力なメリットがあります。たとえ少額でも、時間が経つにつれて投資額は増え、資産形成が進むでしょう。「時間は最強の資産」という言葉があるように、若いうちに投資を始めることで、将来的な経済的自由を手に入れるための重要な基盤を築くことができます。
3. リスク分散を考慮した戦略的な借金返済と投資
もちろん、借金の返済は重要です。しかし、低金利の奨学金返済と少額の投資をバランスよく行うことで、精神的な余裕を保ちながら資産形成を進めることが可能です。借金返済に全力を注ぐだけでなく、将来の成長のために少額でも投資を並行して行うことで、長期的な経済的安定を目指すことができます。
まとめ:奨学金返済と少額投資をバランスよく進めることが鍵
奨学金の負債を減らしていくことは非常に重要で、精神的な自由を取り戻し、将来的な経済的安定を確保するための第一歩です。学術研究や実験結果が示すように、借金や財政的なプレッシャーは認知能力に悪影響を及ぼし、冷静な判断や効率的な問題解決を妨げる可能性があります。そのため、基本的には奨学金返済を優先するべきです。
1000万円の奨学金を借りた私自身も、「奨学金返済がなければ…」と思ったことが何度もあります。奨学金の返済は、経済的にも精神的にも負担となることは間違いありません。
しかし、低金利の奨学金であれば、返済をしつつも少額投資を始めることが有効な選択肢となる場合があります。少額から投資をスタートすることで、リスク管理のスキルを身につけ、将来的な資産形成に向けた早期のアクションが可能です。まずは少額で始め、リスクや市場の値動きに慣れることで、安定した経済基盤を築きながら資産を増やしていくことができます。
奨学金返済と少額投資のバランスを取り、精神的にも経済的にも余裕を持ちながら進めることが、長期的な成功につながるでしょう。
ただし、注意点もあります。
一方で、若いうちに全く投資をしないことは、将来の機会損失を招くリスクもあります。奨学金返済中の方や、これから投資を考えている方は、まずは借金整理を最優先にしつつ、リスク許容度を理解した上で、余剰資金を使った少額投資や自己投資をバランスよく進めていくことをお勧めします。
コメント